贈り物
「この世の中には、何一つ想像だけで済ますことのできるものはない。どんなにつまらぬことでも、想像だけで済むものなんか一つもないのだ。僕たちの予想も許さぬ一つ一つの細かなことが無数に存在し、それが集まって、あらゆるものができているのだ。想像だけだと、ただ大急ぎでどしどし走りすぎるばかりだから、つい一つ一つの細かなことは迂闊に見過ごされて、見過ごしたことにさえ気づかぬことがある。しかし現実そのものはたいへんゆっくりした流れで、おそろしく多様なものをいっぱい詰め込んでいるのだ」
(リルケ「マルテの手記」)
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このゆっくりと流れる現実にそっくりそのまま身を任せ、
静かにあらゆるものを受け入れるというのは、
なんと平穏なことだろうと思う。
すくなくとも、現実から置いてけぼりを食らうということがないだけ、
それはたいした前進なのだ。
(笠井一)
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